万年筆のオレンジ色インクを探す旅

万年筆のインクは沼だという。

確かにそうだろう。
デジタル全盛期の最中、利便性もコスパも高いボールペンを差し置いて、あえて前時代的で面倒くさい万年筆を選ぶような人種である。

インクは紙を選び、紙はインクを選ぶ。
なにより。万年筆にあったインクを選ぶ必要がある。

万年筆の面倒くささよりも魅力に取りつかれた者が、万年筆と同じくらいにインクにこだわるのは摂理といえるだろう。
そしてまた、万年筆が遺すインクの色は、筆記者の心を表現する手ごろな表現方法だといえる。

私はまだそのインクの沼への門戸を叩いた者ではない。

モンブランのラッキーオレンジに至るまで

好きな色というと色占いように、選んだ色で性格を診断されることが嫌いだった。
私はそのたびに「好きな色は黒、あとは灰色」と答えてきた。

しかし、心の根っこにある好きな色は「オレンジ色」である。

大学生になった頃の私は、真っ黒なバギーパンツやマイケルパンツに、白シャツ黒ネクタイの真っ黒なジャケットといった完全なモード系、「きれい目系」の格好で、基本的にモノクロの格好。
モノクロ、かつ質素な持ち物ばかりになっていた。
当時台頭してきた「無印良品」がそれだ。


そして一つの転機がくる。

新世紀エヴァンゲリオンの綾波レイだ。

スレイヤーズ、セイバーマリオネットと90年代後半は、林原めぐみの「元気な声」で埋め尽くす勢いで広がっていた中での、まさかの無口系キャラ。

傾倒した。綾波レイに惹かれる碇シンジのよう。

綾波レイが好きすぎて、青髪のウルフボブにしていた。

ただ、2000年代にもなっていない当時は、今とは違い染髪技術も豊富ではない。
その時節の中で青髪に染めるのは大変だった。
美容室向けの卸業者へ連絡し、青色の髪染めを購入するなどと行動力を発揮してきた。

青髪だけが異質なモノクロスタイルのモード系が出来上がった瞬間だ。

そして、1998年5月2日。

私のヒーローであったhideが急逝した。

XがX JAPANに変わった頃、HIDEのヘアスタイルも変わった。
HIDE がhideとしてソロ活動を始め、発表されたアルバム「HIDE YOUR FACE」、ギーガーによる立体的な仮面の装飾は、ギターキッズの私の心を奪っていた。

そして、私の根底に流れる色の好みは、hideの髪の毛のショッキングピンクでも、hideのモッキンバードであるイエローハートの綺麗なイエローでもなく、「HIDE YOUR FACE」の頃のhideの髪色。炎のようなオレンジ色であった。

万年筆のインクは、約10年で3本のみ愛用してきた。

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一つ目はペリカンの古典インク、ブルーブラック。

古典インクに惹かれたのは、くすんだ青から酸化して黒ずんでいく様である。
革製品の経年変化のように「筆記の歴史を感じる」ことに非常に心地よさを感じた。

しかし、次第に古典インクの色の暗さが嫌になってきたのも事実。
明るい青に惹かれた。

二つ目は同じくペリカン、ターコイズブルー。

古典インクの暗澹たる気持ちになるインクの色の次。
探し求めたのは「南国の海のような青さ」で、ペリカンのターコイズブルーはまさに「南国の海のような青さ」だった。最高な気分で毎日、万年筆を使って文字を連ねてきた。

しかし、次第に「南国の海のような青」ではなく「光り輝く太陽のような、真夏のオレンジ」に気持ちが揺れていた。

パイロットの色雫シリーズ「夕焼け」

パソコンで見る色見本ほど「被写体の色とモニター左右されるものはない」と実感したインクの色であった。
ビンから見えるインクの色は明るく、期待して万年筆にインクを吸わせていく。
金色のニブにオレンジが加わりいよいよ気持ちが昂る。

サッと、文字を書くと「真夏のような明るいオレンジ」や「真夏の総てを染めていくような明るい夕陽のようなオレンジ」はそこにはなく「宵闇に飲み込まれていきそうな心細いくすんだ夕陽の茶色っぽいオレンジ色」だった。

このときの気持ちがわかるだろうか。
違う。そうじゃない。

パイロット製品は大好きなのだが、当時の私はそのままビンをゴミ箱に捨てた。
洗面台に向かい、コンバーターをひねりインクを全て吐き出させると、何度も、何度も流水を飲ませ、吐かせ、コンバーターから「夕焼け」のインクを洗い流し空っぽにした。

3本目に見つけたのがモンブランのラッキーオレンジ。

はやる気持ちを抑え、インクを取り出す。
パイロットの色雫「夕焼け」のときと同じように、万年筆にインクを吸わせていく。
ぬらぬらとオレンジ色混じりに光る金色のニブ。

ぬらぬらと光る金色のニブを拭かず、そのまま紙へ。

紙に146を走らせる。
Mニブが大量のインクを吐き出しながら太い線が文字をかたどる。
セーラーよりもシャバシャバで、万年筆から吐き出されるインクは多く、ぬらぬらと文字が輝き、乾けばよりくっきりとした濃淡が表現された。
明るい。そう。モンブランのラッキーオレンジは思っていた以上に「真夏に底抜けに明るいオレンジ」だった。


最高のインクを手に入れた。そう思ったのだ。

しかし、この最高のインクにも残寝ながら欠点がある。
限定インクであるということだ。


モンブランの限定インクは、毎年発売されるが基本的に再販がない。
この最高のオレンジ色であるラッキーオレンジも、再販がない。
使い切れば、それで最後になる。

インクを使い切ることがあるのだろうか?
と問われたら「人それぞれ」で私も断言はできない。

ときおり、「底抜けに明るい真夏の青空」のような青も恋しくなるが、やはりオレンジはいい。
情熱と元気と心地よさ。気持ちが前向きになる色だ。
それが、もう二度と使うことができなくなるというわけだ。

これは非常に切ない。

モンブランのラッキーオレンジ「色見本」として

画像を残しておく。
ただ、画像を残しておくには容易だが比較するための材料になりえるかどうかが問題点になる。
そして光源や紙にもよって変わってくるだろう。

そこで比較がしやすいたった一つの条件を付けて画像を添付する。
条件は「RODHIA」の紙に書く。である。

理由として、RODHIAは比較的容易に入手することができる。そのためモニターなどの解像度や彩度・明度などを自身で調整し、撮影物と同条件にすることができるからだ。

余談だが、RODHIAの紙はモンブランのインクをよく吸う。
ほぼ日カズンだと滲んでしまうようなインク量でもスッと吸うことで日本語でも文字が潰れず、滲まず視認性が高い状態が保てる。
そして、裏抜けしない。

よいメモ用紙だと思う。

次のオレンジ色のインクを求めて

まだモンブランのインクは残っているものの、次なるオレンジ色のインクを買い求める必要がある。
万年筆ではないが、unibollSignoのマンダリンオレンジの色で明るくて好みであるため、モンブランのラッキーオレンジと同じカテゴリの色味として次のインクを探す基準としている。

急ぎではないが、後継のインクが見つかり次第、備忘を残したい。

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