正反対な君と僕(ジャンプコミックス)の感想とレビュー

マンガ用の「仕切り」にイラストが描いてあって、目が惹かれた。
くまざわ書店のマンガコーナーに立ち寄ったときに、「仕切り」に描かれてるイラストの効果はバツグンだと思う。
そして、試し読み。

ジャンプコミックスもジョジョの奇妙な冒険で買い揃えていた頃は1冊360円だが、今は720円。
ジャケ買いするにはハードルが高く感じれるからだ。
そして今はネットで検索すればいくらでも情報がでてくる。

正反対な君と僕」の購入を迷っているのであれば、購入することをおススメしたい。
全8巻で、丁寧に、かつ、エモーショナルな幕引きで読後の感覚も素晴らしいのだ。

1巻購入からほんの数日で一気に買い込んで読んでしまった。

余談だが、研磨本は本気でやめてほしい。
6巻と8巻は、いずれも研磨本で買い直したんだよ・・・

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青春群像劇

今から20余年前の2000年に、「あずまんが大王」というマンガが発売されていた。
よつばと!で有名なあずまきよひこ氏による4コマ漫画で、高校1年生の入学から話は始まり、卒業を迎えるまでが描かれている。
この頃から、青春群像劇としてのフィクションが好きなんだと思う。

本作、「正反対な君と僕」の第1話で、いきなりクライマックスが訪れる。
いままでの恋愛漫画だと、「片思い」であったり「両想いながらすれ違う二人」であったりするが、これも時代の流れなのだろうか。

音楽と同じで一番大盛り上がりのサビから入るようなものだ。

見た目ギャルで、でも内心は「自分のために空気を読んで疲れてしまう」主人公の鈴木。
鈴木は、自分の意見をしっかりと発言できる谷に片思いしている。
偶然、帰りに一緒になった鈴木と谷。コツンと当たった鈴木の手を、谷はしっかり握って下校する。

翌日、寝坊し遅刻した鈴木に、同級生の山田が声をかける
「おまえ、谷と付き合ってんの?」

全力で拒否する鈴木と、居合わせた谷。
居心地の悪さを覚える鈴木だが、下校時まで声をかけられずにいた。
そこに谷が鈴木に声をかける。

「鈴木さん。昨日のことは忘れて、ごめん」

ここから物語は一気に加速していく。

人物の解像度が高くなっていく

これは、作者の阿賀沢紅茶(あがさわ こうちゃ)先生の意図的な構成だというのが、わかる。
人を知っていくときに、少しずつ解像度が高くなるように、漫画のなかでそれが表現されている。

苗字だけがわかる。
その人の髪型や髪色、どんな顔かとかの表面的な部分。
もっと知りたいと思うと、苗字だけではなく名前を知り、性格を知り、どんどん解像度が高くなっていく。

この漫画では最初、誰もが「苗字」しか登場しない。
いや、例外が一人いた。
社会科教員の「ごまぽん」こと「ごとうまさる」先生だ。
初登場時も卒業式のときも鈴木に対して「うけるんじゃない」とおっしゃっていたあの先生だ。

主人公の鈴木の名前が出たのも2巻。
りっちゃんこと岡理人(おかりひと)の「山田と佐藤とみゆが同じクラスだって聞いて」のセリフが初であり、同じく主人公の谷の名前もこの回で登場する。

そして、主人公である鈴木と谷をとりまく人物たちのモノローグなども徐々に増えてくる。
この人は、こんな人だ。と。

深堀りされていないのは、ナベとサトの二人くらいだろうか。あと、3年生でクラスが変わったあとのクラスメイトなど。
逆に言えば、山田と西(にし)、平(たいら)と東(あずま)、は深堀りされていく。
深堀りされると、親近感がグッと沸く。

文字ではなくイラストであるから余計に、親近感がわいてくる。

平(たいら)と東(あずま)の関係性

私自身、中学校はいい思い出がない。
太っていて運動は苦手だったし、かといって、頭がいいわけでもない。
スレイヤーズなどのライトノベルが好きで、漫画ばかり読んでいた根暗であった。
ドラマ「ひとつ屋根の下」の山本耕史演じる「文也(ふみや)」に似ていると、よくからかわれていた。
こっちは今となっては褒め言葉かも知れないが、当時は嫌味にしか感じられなかった。

高校生に入り、体育会系の部活に入って体躯は細く引き締まったが、根っこは根暗なオタクだったので楽しい高校生活を送れたか?と振り返ると、いつも答えはNOになる。

こんな私であるからこそ、平の中学時代の暗い過去を引っ張り出して現時点に対しラベリングを行い「だから、俺は」という感覚が痛いほどわかる。

3巻の第19話のシャッターチャンス。

いいように扱われる東に対して怒りを覚える平。
「人のことナメすぎだろ。雑に扱われてんだから、ちゃんと怒れよ」というセリフからの

「東だけがすり減ってんじゃん」

平さ、いいヤツなんだよね。純粋で繊細でさ。
嫌いな人は嫌いだと思うんだけど、平のことをどんどん知っていく構成になっているから、読者は思うんじゃないかな。
「すり減ってんのは、お前もだろう。幸せになれよ!」ってね。

平の妹が言ってたように「自分のことが一番好き」ってさ、仕方ないんだよね。
誰だって傷つきたくない。
ことさら、高校生の若い時分の恋愛なんて、傷ついてたらあっという間に時間が過ぎて終わってしまう。

そんな中に、東は「待つ」ということを決めた。
これは強い。
6巻から7巻に続く内容は「谷と鈴木、山田と西はいいから、平と東を見せてくれ」という気持ちを阿賀沢先生は完璧にコントロールしている。
そう。東が自分の気持ちに気が付き、平に惹かれていく姿。
平に負担をかけたくないと思う東。
対して平は、東からの好意や居心地の良さに覚える安心感に対してもコンプレックスを覚える。

なんだこの距離感。

だから卒業式のシーンは、くるものがあった。

東に言った「ありがとう」は、平が今まで言えなかった心の言葉。

弱い自分を見せないと必死にもがき苦しんできた叫びなんだ。
それを東だけには見せられた。

巻末のマンガがまたいい。
「このマンガ終わってしまった」という読後の喪失感と、創造性を掻き立てる内容になっている。

さいごに

なんかメディアミックスするらしく2026年1月からアニメ化だそうだ。

https://sh-anime.shochiku.co.jp/seihantai_anime

「負けヒロインが多すぎる」はアニメから入ったが、本作は逆になる。
なんとなく想像していた声と、アニメの声が「だよね。やっぱこんな声だよね」と再確認できるような感覚があったのは、久しぶりのことだ。

漫画であっても、IFの人生の追体験をできるのは物語である。
ダラダラ続けたり、読後の感動体験をしっかり体験できるように完結しているのはまた素晴らしい。

残りの人生でどれだけ、同じような本に出合えるだろうか。
そう思える良本であった。

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