パイロットのVコーンに回帰するペンの沼

多分、私が一番最初にVコーンに触れたのは高校生くらいだったと思う。
パイロット社の年鑑を見るとVコーンの発売は1991年になっているので、妥当な線だろう。
当時は、嫌いだった。
嫌いな理由は、実に簡単だ。
キャップが固い。金属クリップが取れる。

それから30余年経って言えるのは「Vコーンは青い鳥である」ということに尽きる。

多くのペンユーザーが語ってきたであろう「Vコーン」の良さ。
もし、本質で選ぶなら回帰するのである。

なお、本記事で追及しているのは「黒インク」のみである。
ただし、Vコーンのみではなく、私がメモ用で使用してきた黒インクのボールペンとの比較についても言及しておく。

他社ペンとの比較(Uniボールone/Calme/アクロボール)

Vコーンの後発で発売されたVコーンノックは、メモ帳とセットで持ち歩きしていた。
しかし、何かの拍子にカバンの中でノックが押されて、カバンの記事に黒い円状のインク染みを作ったこともある。
そのため持ち歩きのペンとしては、キャップの1クッションを含めてもVコーンが優れている。
持ち歩きのペンとの比較と共に、個人的な感想を述べていく。

三菱 Uniボールone

職場でジェットストリームの多色ペンを使っていた頃に、Uniボールoneを購入した。
しかし、かなり利用期間は短い。
気に入らなかった点として、黒とオレンジの2色が起因となる。

まず黒。最も黒いゲルインクボールペン“Blackest gel ink ball pen”」として、ギネス世界記録™に認定されているが、個人的にダメだった。

使っている最中、本当にこのインクは黒いか?という疑問、かすれの頻度に怒りを覚えた。

オレンジも色味がくすんでいると感じた。
モンブランのラッキーオレンジ、シグノのマンダリンオレンジの明るいオレンジとは違う。

利点としてはクリップ。クリップだけはよかった。

子供が、キッザニア福岡で「筆記具屋」で選んだ一本。
オレンジ色を使って欲しいとプレゼントされたので筆箱には差している。
二つの理由で使うことができない。

ぺんてる Calme

ぶらりと立ち寄ったドラッグストアの文具コーナーで見つけた。
正直、まったく期待していなかったが、筆記時の通称カリカリ感がドンピシャで当たり。

本体の軽さ、カリカリ感。持ち手のグリップのパターン、どれをとっても良かった。
ペン先を出すノック音がかなり軽減されているのもよい。

半年近くは使ってきたが、黒色の濃さがエナージェルよりも薄いことが不満だった。
じゃあ、エナージェルの黒を持ち歩けばよかったかも知れないが、エナージェルの方がノック機構分だけ長いため持ち歩きするには「長い」と思っている。

パイロット アクロボール

ぺんてるのCalmeが0.5mmで線が細いと感じたため、次は0.7mmを買おうと思っだ矢先に、出会った。

よい。
非常に黒が濃く、0.7mmのアクロボールはペン先がとにかく滑らか。
滑りすぎて、クセの強い悪筆が更に難読になるほどだ。
サラサラではなく、ぬるぬるとした筆記感。
インクの黒さ。
これは利点である。

マルマンの「書きやすいルーズリーフ」との組み合わせになると、滑らかさは、より顕著になる。
いや、凶悪だ。
滑るどころの話しではない。
悪筆の字は崩れ落ち、もはや字なのか、記号なのか、イラストなのか。判断が難しくなる。
ただし。紙面に表現されるのは思考の断片。

擦過音すら残さず、筆圧無視で、文字が躍る。
マルマンの書きやすいルーズリーフに、Editに、ロルバーンに、ニーモシネに、有象無象のメモ帳に、文字が踊っていく。

思考即文字起こし。
タイピングするよりも速く書ける気さえする。

私が一番長く、使ってきたメモ用のボールペンだ。
さすがパイロット社。いい仕事をする。

ただし、0.5mmになると、ぬらぬらとしたインクフローの利点は露と消える。
カリカリとした筆記感になり、ぺんてるのCalmeと同じようなインクの濃さになる。

Vコーンを選び、再び手に取った理由

アクロボールからVコーン。
同じパイロット社製品ではあるが、Vコーンを選んだ理由は2つ。

1つめの理由は、インク。
やはり、アクロボールのアクロインクも、Vコーンのインクと比較すると薄い。
光を最大99.965%吸収するベンタブラック的な「インクの黒さ」を追求している点にある。
数多のボールペンと比べて、Vコーンのインクは私をいつも安心させてくれる。

紙にペン先を落とす。
万年筆のように金属チップから紙へと、水性の黒いインクが染み込んでいく。
いや、沈んでいく。という表現でもいいかもしれない。
きちんと、トメ、ハネが表現できて、しっかり黒いインクなのだ。

2つ目の理由は、難読な悪筆からの脱却。
アクロボール0.7mmで書かれた走り書きの私のメモは、書いたその日以降にみると、何が書かれているのか読めない。
X(twitter)で見かけたロシア語の手書きメモが難読すぎるが、同じように私の走り書きは難読で、転記するのが嫌になったからだ。

VコーンノックよりもVコーンが優れている点

正直なところVコーンは完成されている。
「これ以上、進化はできない」という事実を使うと理解させられる。

そんなバカな、とも思う。
Vコーンが1991年。
対して。Vコーンノックは2020年の発売。この間約30年。
あらゆる技術が指数関数的に加速し、同時に経済が停滞しつづけた期間。

それでも。Vコーンノックは、Vコーンに勝てない。
勝てるのは、筆記までに要する時間の早さでしかない。

Vコーンが優れている理由は、五感を刺激するからだ。

Vコーンは、五感を最高に刺激するから満足度が高い

言わずもがな、人間には五感というものがある。
視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五つだ。

美味しい料理を食べたとき、素晴らしい景色に出会えたとき、最高の出会いが成就したとき。
人は五感が刺激されると、満足するのだ。

Vコーンは、五感のうち3つを刺激する。
視覚、聴覚、触覚だ。

特に「拘り」と呼ばれる執着に関係する感覚を満足させられる。

視覚

散々、引っ張っているが、Vコーンのインクの黒さは群を抜いている。
直液式であることで、かすれもない。

Vコーンノック0.5mmとVコーンは、同じ0.5mmらしいが、線の太さが違う。
Vコーンの方が微妙に、心なしか、太い。
その微妙な差が生み出す線の太さを、インクの黒は如実に反映するのである。

触覚

Vコーンノックは、軸が少し太く、持ち手に加工が施されている。
対して、Vコーンの持ち手はなにも加工が施されていないし、軸も細めといえる。
手指に汗が付いているとVコーンは滑る。
また、私のように手が大きいわりに持ち方が汚いと、親指の爪が人差し指の腹に刺さったりもする。
しかし、VコーンノックよりもVコーンが優れている。

理由は簡単。
ノック機構が積まれることで芯と軸の間に隙間ができたこと。
この隙間分、筆記字にVコーンノックは、ペン先がガタつき、揺れるのだ。
対してVコーンは揺れない。

この点を強化したボールペンもある。ブレンという名前だ。

聴覚

最後に、聴覚。
Vコーンの金属チップが、紙面との接触でカリカリとした擦過音を耳に届ける。
俗にいうカリカリ感の、カリカリとした筆記音が非常に心地よいのだ。
ぺんてるのCalmeやエナージェルもよいが、Vコーンの方が頭一つ分抜けている。

潤沢なインクフローがあるにも関わらず、このカリカリとした筆記音、紙とペンの擦過音。
正直なところ、これだけでもVコーンを選ぶ理由になるのではないだろうか。

だからこそ、ノック式の押し下げた後の「ノック部分のビビり音」といったノイズが減点理由になるのだ。
ノック部分のビビり音がなくなるだけでもノック式でもいいかも思えるほどである。

Vコーンのデメリット

入手のしづらさ

大した問題ではないかも知れないが、「売っているところが少ない」

スーパーやドラッグストアですら展開しまくっているジェットストリーム。
同じパイロット社のアクロボールもよく見かける。

しかし、VコーンとVコーンノックは違う。
文房具店でも、場所によってはVコーンノックの黒色しかない場合もある。
この点、パイロット社のマーケティングには疑問視をせざるを得ない。

好みがわかれるシンプルなデザイン

Vコーンの見た目は、チープだ。

水性ペン界隈の鮫である。
これ以上の進化がのぞめない状態、完成された状態で30余年。

最高とは「それ以上足すことも、それ以上引くこともない状態」のものを指すそうだ。
このことからも、Vコーンは最高の状態であるから、ユーザーである私はチープさを嘆きつつも、この姿のまま変わらないで欲しいと切に願うのだ。

ドラクエやファイナルファンタジーは好きだったが、それ以上にメタルマックスと女神転生が好きだった。

メタルマックスは、Vコーンの誕生とおなじ1991年である。
レッドウルフが、なぜレッドウルフという名前で赤い戦車なのかを知らなくても、レッドウルフが強い戦車であるように。

Vコーンは最強の水性ボールペンなのだ。

Vコーンを選びたい人へ

たかだかペンである。
「弘法筆を選ばず」ということわざもある。

しかし、1日の大半をパソコンに費やす仕事をしているからこそ思う。

どうせなら「心地よいものを選びたい」

速乾性、ペンの見た目、珍しいインクの色。
これらを語るものではなく、「書く」という行為を非常に楽しみにさせてくれる。
とくに書くことがなくてもメモを開き、キャップを外す。
紙にそっとペン先を落とす。
するとどうだろう。

カリカリ音と呼ばれる擦過音。
手に指に伝わる、筆記をしているという摩擦抵抗。
万年筆のような潤沢なインクフローで、筆記直後はぬらぬらと輝くインクの軌跡。
3つの感覚を十分に満足させられるペンが、Vコーンである。

1本120円ほどで、高価格高機能ペンを駆逐してしまうには十分。
黒インクはVコーンさえあればいい。

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